賃金制度一考

調査員 才川 智広

厳しい経済、雇用情勢が続いている。未曾有の経済危機といわれるなか、やむを得ず賃金カット、定期昇給の停止、ベア凍結、人員整理等の対応をとらざるをえなかった企業の方も多いことだろう。人事・賃金制度には様々なものがあるが今回の経済危機により企業経営はどのような影響を受けたのだろうか。また今後、企業はどのような見直しをし、どのようにしていこうとしているのか。

当機構では昨年12月、「今後の企業経営と賃金のあり方に関する調査」と題して、企業を取り巻く経営環境が変化する中で、雇用システムの現状がどのようになっているか、特に、賃金体系や賃金制度の運用がどのようになっているかに焦点をあて、その実態を明らかにする目的で企業を対象としたアンケート調査を実施した。

「職能」「職責・役割」をより重視する傾向に

自社の賃金体系について聞いたところ、「過去」(概ね5年前)については、「個人属性重視型」が最も多かったが、「現状」においては、「職能重視型」が最も多く、次いで、「職務重視型」、「個人属性重視型」などの順となっていた。これに対して、「今後」(概ね5年後)の賃金体系については、「職能重視型」が最も多く、次いで「職責・役割重視型」、「職務重視型」などの順であった。「現状」と「今後」との差をみると、年功的要素を重視する「個人属性重視型」が大きく後退する一方、「職責・役割」「職能」の順で増加幅が大きくなっていた。

また企業がこれまでどのような賃金カーブをとってきたか、今後どのようにしていきたいと考えているかをみると、過去の賃金カーブは、「緩やか上昇後頭打ち型」または「継続上昇型」だったが、現在は「緩やか上昇後頭打ち型」にシフトしている。今後については、「早期立ち上げ高年齢層下降型」の賃金カーブを目指している。

今後の見直しでは「評価による昇進・昇格の厳格化」を挙げる割合が高い賃金制度の見直しについて、「2000年度以降に実施したこと」と「今後実施予定のこと」を聞いた設問では、2000年度以降に実施したことでは、「評価による昇給(査定昇給)の導入」「評価(人事考課)による昇進・昇格の厳格化」を挙げる割合がともに4割弱と高くなっていた。また、「高年層の賃金カーブの抑制」、「25~30歳前後の賃金水準の引き上げ」についても2000年度以降見直しを行ったと回答している企業が3割を超えていた。今後実施予定のことでは、「評価(人事考課)による昇進・昇格の厳格化」をあげる割合が最も高く、次いで「評価による昇給(査定昇給)の導入」、「評価(人事考課)による降格・降級の実施」などの順となっていた。評価(人事考課)の果たす役割がますます大きくなることが見て取れる。またその際には、評価者により高い課題が課されることも忘れてはならないだろう。

賃金制度見直しのメリット・デメリット

引き続き厳しい雇用情勢は続くものと思われるが、各企業にとって必要なことは、調査で賃金制度見直しのメリットとして挙げられた「若年層の賃金が上がり、若年層の意欲が高まった」や「賃金制度の年功的運用を改め、総額人件費を抑制することができた」「個々の労働者ごとに賃金決定ができることにより、労働者の意欲が高まった」などの点を活かし、一方、デメリットとして挙げられた「人事評価・考課のための作業が煩雑化した」「組織的な一体感や職場の規律が保ちにくくなった」「賃金についての納得感が低下し、苦情が増えた」といった点に留意しつつ見直しをはかっていくことだろう。

労使コミュニケーションを緊密に

また、「制度はつくったものの、運用が・・・・」という結果にならないように、従業員のモチベーションをアップさせ、人件費生産性の向上を図るため、労使で緊密にコミュニケーションをとり、望ましい制度の実現に向け積極的に取り組んでいくことが期待される。

かく言う、当機構の人事・評価制度も何度も見直しを図り、労使で話し合いを続けている。

(2009年7月24日掲載)