職業分類表の改訂にあたって

調査員 石井 和広

就職や転職、再就職などで4月から新しい職に就いた人も多いことだろう。「憧れの職業だった」「興味・関心を持っていた」「どういう仕事かよくわからないが、求人情報を見て応募した」「高収入を得られるので」「他に仕事がなかった」…、入職の経緯や動機、理由はさまざまだが、希望していた人もそうでない人も、数ある職業の中から縁あってその職に就いたことにかわりはない。

ところで、日本にはいったいいくつの職業が存在するのだろうか?厚生労働省がハローワークで職業紹介や職業相談などに使用している「職業分類表PDF(*1) には、小分類レベルで379、細分類レベルで2,167の職業を分類項目に設定している。また、事業所によってさまざまな呼称が用いられる職業名 が、それぞれ分類表のどの項目にあてはまるのかを明らかにするために作成した「職業名索引(*2)では、2万弱の職業名を採録している。一方、政府の各種統計調査に用いられる総務省の「日本標準職業分類(*3)は364の職業を小分類の項目に設定しており、国勢調査の索引 は約3万の職業名をリストアップしている。

このように数多の職業が存在するわけだが、そのすべてに共通する「職業としての特徴」がいくつかある。まず、働くことで報酬を得られるという点。それから、一時的ではなく一定期間継続的に行われるものであること。そして、あらゆる職業は人が暮らす社会の中で何らかの役割を果たしているということだ 。

映画「おくりびと」で主人公はオーケストラの奏者になることを断念して故郷に戻り、ふとした切掛けから遺体の納棺、湯灌を行う職に就く。周囲から職業差別的な視線を浴びながら、忌み嫌われがちで困難な仕事を続けていくなかで、葬儀のあと遺族に感謝の言葉をかけられる場面があった。主人公が仕事を通じて社会の中で人の役に立っている、必要とされていることを実感し、働くことに喜びを見出した瞬間のように思われた。すべての職業は社会の中で何らかの役割を担っており、その職業上の行為を必要とする人がきっといる。だからこそ、その職業はいまも存在して、働く人を求めているのだろう。

JILPTでは厚生労働省から職業分類表の改訂に関する研究の要請を受け、その改訂案の策定に取り組んでいる。現在と過去の職業分類表、職業名索引を比べてみると、今ではほとんどみられない職業がかつて存在していることがわかる。「採炭員(採炭夫)」「蒸気機関士」などは、以前の職業分類表では小分類の項目に設定されていたが、就業者数の減少により、現在では他の小分類のもとに統合された。一方、最新の「職業名索引」には、「ウェブデザイナー」「リフレクソロジスト」「ネイリスト」などの職業名が収録されている。

産業構造の変化、技術革新、機械化の進展などに伴い、職業の姿も変わっていく。各時代の職業分類は、その時々の人々がどのような形で社会に参加していたか、その一面を表すものだといえよう。2010年に完成予定の改訂職業分類表は、現在の日本社会を職業という側面から映し出したものになる。職業の変化を踏まえ、ハローワークに出される求人の動向などを参考にしつつ、どのような分類表が最も適切なのか、日々検討を進めている。

  1. 例えば、飲食店などで給仕の仕事に従事する人の呼び方は、ウェイター・ウェイトレス、フロア係(フロアスタッフ)、ホール係(ホールスタッフ)など事業所により異なる。
  2. 総務省では日本標準職業分類を基に、国勢調査の集計用に再編成した分類表(274目の小分類を設定)を作成している。国勢調査で記入された職業名をこれに分類する際などに必要な資料として国勢調査の職業分類索引がある。
  3. 労働省編職業分類では、職業に対する一般的な考え方として、「生計維持のために何らかの報酬を得ることを目的とする継続的な人間活動」あるいは「一定の社会的分担もしくは社会的役割の継続的遂行である」ことを指摘している。そのうえで、職業を「職務の内容である仕事や課せられた責任を遂行するために要求される技能、知識、能力などの共通性または類似性によってまとめられた一群の職務」と定義している。

(2009年5月15日掲載)