就職活動における友人ネットワークの重要性

研究員 岩脇 千裕

時折、各地の大学から出張講義をご依頼頂くことがある。その対象は2年生、3年生であることが多いのだが、「面接で何を話すと高く評価されるんですか」「何か資格をとった方がいいですか」といった「処方箋」を求める質問がよく出される。就職活動を始める前の学生は、企業の採用活動に対して、「企業は採用する人材の条件をあらかじめ設定している」「内定を得るには、その企業が設定する条件に『当てはまる』ように自分を変化させねばならない」というイメージをもっているようだ。

一方で企業の方に話を聞くと、「最低限の条件は設定しているが、最終的には『ありのまま』のその人が、わが社に『合う』かどうかを確認したい」という答えが返ってくる。同様に、就職活動を終えた4年生の多くは、「就職活動では飾らずに本当の自分を見せることが重要」と話してくれる。企業の採用活動に対する学生のイメージは、実際に就職活動を経験することで「当てはめ型」から「マッチング型」へと変化するといえよう。

しかし中には、就職活動を経験してもなお「当てはめ型」のイメージを持ち続ける人もおり、そうした人たちは「ありのままの自分」を見せられないことで「マッチング型」の選抜に通過できず、そのまま卒業の時を迎えてしまうことも少なくない。なぜ彼・彼女たちは「当てはめ型」のイメージから逃れられないのだろうか。

実際のところ、企業の採用活動は「当てはめ型」と「マッチング型」の両方の側面をもつ。自由市場化が進んだ大学新卒者の採用-就職においては、全国の学生/企業が一斉に活動を始めるため、特定の企業に応募が集中しがちである。大量の応募者から若干の「優秀」な人材を効率的に探し出すには、本格的な選抜の前に目の粗い選抜を行う必要がある。初期の選抜では書類審査や筆記試験などの低コストの手法で「最低限の条件」に「当てはまらない」人を一律にふるい落とし、残された人に対してのみ面接など手間のかかる手法で「わが社に『合う』かどうか」判断する。この手順を学生側からみれば、初期の「当てはめ型」選抜に通らない限り、「マッチング型」選抜を体験する機会はないということだ。

就職活動を始める前には多くの学生が、採用活動=「当てはめ型」というイメージをもっている。しかし、就職活動を始めて早々に「当てはめ型」選抜に通過し、「マッチング型」選抜の段階へ進めた人は、面接で「理想の人材」を演じて不評を買ったり、偶然もらした本音が笑顔で迎えられたりといった体験を繰り返すことで「ありのままの自分」を見せることの重要性に気づき、企業の採用活動には「マッチング」の側面もあることを「実感」できる。一方で、「当てはめ型」選抜になかなか通過できない人は「マッチング型」選抜を経験しないまま「一定の基準」で切り落とされるという体験を繰り返す。それにより、企業の採用活動=「当てはめ型」というイメージはむしろ強化されるため、やっと「マッチング型」選抜の場にあがれたとしても、「ありのままの自分」を見せられず落とされてしまう。就職活動は成功が成功を生み、失敗が失敗を生む構造になっている。

この悪循環に風穴を開けるものはないのだろうか。学生に対するヒアリング調査の中で気づいたことがある。初期の選抜で長らく足踏みをしていた学生が、ある時急に面接に通るようになった背景には、友人や先輩からの「ありのままの自分を見せた方がいい」という一言があるということだ。自分を飾らず示すことが大切などということは、学校や支援機関でも、大人たちが散々繰り返し伝えている。しかし玉石混交の情報が氾濫する今の世の中、大人がいくら訴えても、若者の「それは建前で、本当は違うのではないか」という疑念を取り払うことは難しい。実際に就職活動を経験した友人や先輩の言葉以上に、説得力のあるものはない。

問題は、そうした友人ネットワークは全ての若者に平等にあるわけではないということだ。友人が少ない人、就職希望の友人が少ない人、友人と就職活動の時期がずれてしまった人など様々なケースが考えられる。これに対し、既に対策をたてている学校や支援団体もある。例えばある大学では、就職活動を終えた4年生や卒業生が下級生の相談にのる場をキャリアセンター主導で整えている。すなわち、今までは個々の学生がインフォーマルに形成してきた人的ネットワークを、誰もが利用できるフォーマルな仕組みにしたのだ。若者に対する支援を考える際には、こうした視点を取り入れていくことも必要だろう。

(2009年4月10日掲載)