失業率を「地域」の視点から考えると

JILPT研究員 勇上 和史

1990年代以降の雇用失業情勢の悪化を受けて、近年、地域経済の活性化を通じた地域再生が叫ばれている。ここでは、地域レベルの失業率を考えるうえで、筆者が突き当たった2つの問題について記したい。

2つの失業率

まずはデータである。毎月、新聞やテレビなどのメディアを通じて我々が目にする「労働力調査」の失業率は、最近になって、都道府県別の年平均値が試算値として公表されるようになっている。一方それまでは、5年に1度実施される「国勢調査」が地域別失業率の主な手がかりであった。ただ、これら2つの失業率は全国平均でみても異なっている。それが第1の躓きである。

全体的な傾向として指摘できるのは、2000年の調査まで、国勢調査が(各年9月の)労働力調査の失業率より高く、また若年者と65歳以上の高齢者は国勢調査の方が、中高年は労働力調査の方が著しく高いことなどである(2000年に至って、両調査の差がほとんど消滅しているのも謎である)。結局、定義こそ同じものの、両調査では、調査票の設計や調査方法、調査員の訓練度などに違いがあり、どちらがより「正確か」を決するのは難しい。筆者は、地域別に詳しい属性別の失業率を扱ったため「国勢調査」を用いたが、この点は未解決である。

失業率の意味するものとは

使用目的に照らしてデータを選んだ上で、今度は、都道府県別の失業率にのみ着目すると、ともすれば評価の基準を失業率の高低にのみ求めてしまう問題が生じた。しかし失業率に加え、就業者数が伸びているのかどうかという視点を加えると、地域経済のダイナミズムの一端が垣間見える。

試みに、「国勢調査」から戦後50年間の各都道府県の動きを振り返ってみると、多くの時期で失業率の改善は就業者数の伸びと結びついているようにみえる。ところが、80年代後半以降は、時期によっては両者の関係が逆転したり、あるいは、一部の県では就業者数と失業率が共に低下したりするという、以前にはみられなかった現象が生じている。失業率の動きだけでは、地域の雇用情勢の「深刻度」(あるいは「活性度」といってもよい)を捉えられなくなっている、というのが率直な感想である。

就業という視点

就業者が減少しつつも失業率が下がるという現象の背後には、労働力人口が大きく減少している事実がある。80年代後半から現れたこうした地域の姿は、少子高齢化と生産年齢人口の減少が確実視されている日本の将来像を示唆しているのかもしれない。むろん現状では、どの地域にとっても、失業者の再就職という雇用対策が喫緊の課題であることに変わりはない。しかし一部の地域については、「非労働力の労働力化」や「雇用創出」といった、昨今注目を浴びている就業促進策こそが、切実な課題となるのかもしれない。