紡いで、繋げて

キャリアガイダンス部門 統括研究員 西村 公子

人生の様々なイベントの中で、失業は8番目にストレスが高いという研究結果がある[i]。その上位には、愛する人との死別や離別等の項目が並んでおり、数ある出来事の中で、失業がいかにストレスフルなものであるかがわかる。

では、失業者はストレスだらけで不幸の真っただ中に常にいるのかというとそれも間違いで、離職して失業した場合、仕事の拘束からの開放感とくつろぎとともに仕事に就いていた時には得ることが難しかった自由時間ももたらす[ii]。しかし、失業者がその開放感に長く浸っていることはできない。求職活動を行わなければならないからである。

ところが、すんなりと望むところに就職が決まればよいが、失業が長期に亘ると、求職活動に向かうエネルギーは減退してしまう。事実、失業期間が6か月を過ぎると、求人へ応募する人の割合はかなり減少する[iii]

このように、開放、生活の糧が得られない不安定さ、所属する集団がないことから生じる孤独感等々、失業者の心理は複雑である。では、この複雑な心理状態を理解し踏まえた上で、失業者が希望をもって求職活動へと向かうことを支援するにはどうすれば良いのか。

キャリアは、職歴、職務の連鎖等と表現される時間的継続性をもった概念である[iv]。失業状態にあるとは、その連鎖や継続性が断絶された不安定な状態にあることを意味する。だったら、繋げれば良い。

繋げるための支援には、様々な段階があるが、まず、求職者が過去、現在と紡いできたキャリアの中で、何を感じ何を重んじ何が好きだったか、将来はどうしたいのかを思いつくまま語り、支援者はそれを聴く。支援者のやることは、語ることができるような雰囲気を作り、無理のない励ましを行うこと、聴いた話に流れるその人のキャリアのテーマを見出して提案すること。そのテーマが語り手である本人の思っていることと違っていればまた考え直せば良い。この2者間の言葉のやり取りを通じて「これだ」と納得するものが見つかったときの嬉しさは、私自身体験して予想外であった。自分の職業行動のルーツを見つけて、自分のキャリアの道筋がつながった瞬間の、とてつもなく明るい気持ち。そう感じたのは私だけではない。労働大学校の研修生に対して自らの仕事に関する過去、現在、未来を語るワークを2人1組で行った時の皆の熱気に、仕掛けた本人である私が圧倒された。初めはおずおずと、あるいはちょっと嫌だなと思っていても、よく聴いてくれる人がいれば、人はこんなにも自分を語ることができるのか。そしてテーマが見つかり、キャリアの意味づけをすることができたならば、こんなにも幸せな気分になり、前ヘと向かう元気が出てくるのか。

それは、紡いできた命の軌跡を整理し、肯定することができたからではないか。

変化の激しい労働市場で、失業状態となった人の複雑な心理状態とストレスへの配慮を行いつつ、紡いできたキャリアを未来へと繋げていくことができるよう支援するための研究に携わる根本には、"人と接し、その人の笑顔を見ることが好き"な自分がいる。

元気な笑顔が1つでも増えるような研究ができたらと心から願っている。

(2008年12月10日掲載)


[脚注]

  1. ^ 石原邦雄、山本和郎、坂本弘編「生活ストレスとは何か」垣内出版 1985
  2. ^ 日本労働研究機構「失業の心理と求職行動」調査研究報告書 1991 No.15 p165
  3. ^ 厚生労働省「平成14年求職者総合調査」
  4. ^ 厚生労働省職業能力開発局「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会報告」 2002