ミスマッチ解消に求人企業ミシュランを

特任研究員  吉田 修

「みんな迷っています。情報の海の中で」とキャリアカウンセラー氏はいう。

少子高齢化が進み、まもなく若年労働力が希少となろうとしているが、労働市場でのミスマッチは減りそうにない。「就職先の中身が見えない」「求人側はあれこれと情報を求めるが、自分の情報はあまり出さない」。こうして「どの企業が良いか決断できず」、就職しても「合わなくて離職する」。これはキャリアセンターの特訓を受け、綿密な自己分析と企業研究を経たはずの大学生も同様である。

ここでは、求人・求職情報のありかたが問題となっている。改めて労働市場における求人側と求職側の情報を考えると2つのアンバランスが目につく。

1 「求人側情報<求職側情報」の量的アンバランス

米でもそうだが「金のあるところに権力がある」(Bolles)ので労働市場では求人側は求職側より強くなりがちだ。求職者は、面接はもとより履歴書・職務経歴書などを通じて多くの個人情報の提供を求められるが、提供される求人者の情報は基本的には求人票1枚であり、とてもそれに見合った量とはいえない。保証人などの面倒な情報を求められることも多い。

2 「求人側情報<求職側情報」の質的アンバランス

企業側も求職側も相手の実質的中身を知りたい点に変わりはない。企業側の求める求職者情報の質は、レジュメの普及やジョブカード導入などでますます高くなっている。

一方、求職者側が切実に求める求人側情報はどうであろうか、求人のチャンネルは Web を主として官民ともに整備されてきたが情報の質的内容が伴わない。従来から切望されてきた内容は求職段階では得られない。すなわち、新卒を除く賃金等の処遇は、一般に採用後の配属経過を経て確定し、最も関心の高い具体的な職務や職場の雰囲気、キャリア見通しなどは応募段階ではわからない。企業の経営内容や将来性などについては全国的な上場企業をのぞいては中小・地域企業では通常は情報を得ることも容易でない。

このため、学生などにはブログや某チャンネルなど Web 情報の人気が高い。これらは個々の職場について時に貴重な内容を提供することもあるが、一方的な批判や誹謗などの問題を伴うものもあり、いたずらに就職への不安(高ノルマ、激務、休みなし、異常社風等)を助長する面もある。

これらへの対応には当面2つの方向が考えられる。

1 求人・求職両側が労働市場参加資格として社会標準的な情報を提供すること

両者が労働市場に参入する際に提供すべき最低の情報をルール化して情報マッチングを効率化と誤解・欺瞞の回避を図る。求職者は社会的共通言語として標準化された分類・職業名のもとに労働力としての性能を示し[1]、求人企業は労働条件・労働社会保険・就業規則などの(形式的)労働環境についての公的認証を示すシステムが必要である。求職者は労働力のJIS的規格としてのジョブカードや社会保障番号、企業は背番号とともに各種保険の共通番号を示し、互いにチェックできることが望ましい。これを満たさない市場外取引も可能だが、条件は悪くなることもあろう。

2 求人企業の実質的な外的評価を提供すること

企業の財務内容についてS&Pや Moody' sなどの格付けが重視されるように雇用者としての企業について労働条件から安全衛生環境・CSRまで就業に関する水準に関する多面的な外的評価・レイティングがあってもおかしくない。EUでは優良雇用企業ランキングが公表され、日本でも障害者雇用や消防・衛生などについて優良企業の表彰や未達成企業の公表が行われている。ちなみにその実施にあたっては民間の第三者的な機関が実施することが望ましく、ミシュランやAAA(全米自動車協会)などのレストランやホテル評価同様にその分野の水準の向上に資することとなろう[2]

日本では公的評価へのアレルギーは強いが、外国・民間からの評価は割合素直に受け入れている。そろそろ求職者向けの企業ミシュランがあってもよいのではないだろうか。

[以上は筆者の個人的意見でありJILPTとは無関係であることを付記します]

(2008年 10月 3日掲載)


[脚注]

  1. ^ キャリアマトリックス JILPT2006 (2008改訂) で関係ツールを無償提供中
  2. ^ HRMチェックリスト (組織診断・活性化) JILPT2005 同