母乳育児と女性労働

研究員  小野 晶子

昨年4月に子供が生まれた。一年間、育児休業を取得し、仕事から離れて子育てに没頭した。刻々と変わる我が子の表情、仕草を近くで見守る濃密な時間。自分の生き方についても、改めて考える機会となった。

職場に復帰したのは今年4月。今も母乳での育児を続けている。日々、あふれる幸せをかみしめているが、仕事と育児の両立は想像していた以上に大変だ。

子供ができて、迷うことなく母乳育児を選んだ。母乳だけだと他の人に預けることが出来ないと考え、一度、粉ミルクとの混合に挑戦してみたこともあったが、哺乳瓶を受け付けてくれなかった。結局、1年3ヶ月に至る現在まで母乳で育てている。

母乳育児は近年、強く推奨されている。乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険性、アレルギー、感染症等の疾患、肥満などのリスクが軽減できるとされ、母親の出産後の体力や体形の回復が早いという。子供は脳や体の発達がよく、精神的にも安定するらしい。経済的(粉ミルクや哺乳瓶などを買う必要がない、病気にかかりにくくなるので薬代、入・通院費用などが少なくてすむ)で、便利(いちいち作る必要がない)なのはいうまでもない。おかげで我が子はこれまで大した病気にもかかっていない。保育園を休む回数も、周囲の子と比べて少ない。

本音から言えば、母乳育児のすばらしさを広め、誰にでも勧めていきたい。ただ、そういうわけにもいかない。自分でも、次の子も母乳だけで育てることには、少し躊躇する。仕事との両立がやはり、限りなく難しいと実感しているからだ。

子供にもよるだろうが、うちの子は夜中に3度は起きて泣く。母乳で育てている場合、夜中に起きる子は多いときく。授乳して、寝かしつけると1時間程度が過ぎていく。子供ができて以来、3時間以上続けて寝たことがなく、睡眠不足の状態が続いている。誰かに任せるわけにはいかないし、誰も変わりはできない。仕事が忙しい日は特に母乳の出が悪い。過労とストレスは大敵なのだ。

法律では原則として、親は子が1歳になるまで育児休業が取れることになっている。ただ、この1歳という月齢は、子供の乳離れに充分ではないと思う。日本の乳離れの主流は1歳2~4ヶ月であり、これは人間としての独り立ち、つまり二足歩行がしっかり出来るようになる時期と重なっている。母乳育児を推進する環境づくりを考えれば、もう数カ月の延長が望まれる。世界保健機構(WHO)ではさらに長く2~3歳まで母乳を続けることを勧めている。早く断乳するよりも、長く授乳し続けるほうが悪影響は少ないという理由からだ。

断乳前の母子にとって会社内に保育所があることは母乳育児の多大なる味方となる。時間になったら授乳できる環境は理想的だ。さらに、仮眠室や時間単位で取れる休暇制度があり、日中に体を休めることができればさらにいい。そのような施設や制度が完全に用意されていなくても、子育てに理解を示してくれる雰囲気が職場にあれば、母親はいく分安心して、育児と仕事が両立させることができるだろう。

幸運なことに、私はいろんな人に助けられ、周囲の配慮のもとで子育てをしている。だからこそ、なんとか母乳育児を続けられている。

幸運という条件付きではなく、誰もが母乳で子供を育てられる環境になれば、と思う。

(2008年 7月 23日掲載)