マスコミへの掲載:高卒採用 長期戦略持つ企業は継続

労働政策研究・研修機構研究員 原ひろみ

来春の高卒予定者に対する採用選考が16日から始まる。高卒で就職を希望する若者たちは、バブル経済崩壊後の1990年代前半以降、厳しい就職環境に置かれ続けてきた。1社当たりの新規高卒者に対する求人数が減少しただけではない。高卒採用そのものを取りやめた企業もある。

しかし、その一方で、高卒者の採用を中止しなかった企業も存在する。90年代前半以降も、高卒者を継続的に採用してきたのはどのような企業だろうか。

私たちは2004年秋、企業の人事・労務担当者を対象に、「若年者の採用・雇用管理の現状に関する調査」を実施した。どのような企業が現在高卒者を採用しているのかを把握し、将来的に高卒採用を増加・復活させる可能性がある企業の特徴を明らかにすることを目的に行った調査である。

この調査の結果を分析してみると、新規高卒者について「長期的な視点から計画的に技能を習得させる」という育成方針をとっている企業ほど、新規高卒者を継続的に採用してきたことが確認された。

新規高卒者の採用が減った要因としては、経営状況の悪化、業務内容の高度化、パート・アルバイト、派遣・請負社員など非正規労働者への労働需要シフトがあると指摘されてきた。しかし、これらの要因を考慮したとしても、長期的な視点に基づいた人材育成の方針を立てている企業は、高卒者に対する労働需要が減少をたどってきた時も採用を続けてきたのである。

したがって、高卒者を採用する企業が今後も存在し続けるかどうかは、労働需要の規模を規定する経営状況だけでは必ずしも決まらないと考えられる。競争力の基盤として、外部労働市場からは得ることができない技能をもつ人材を育成したり、企業固有の技能を継承したりすることを、各企業が経営戦略の中でどの程度重要と位置づけているかで、新規高卒者の採用が継続して行われるかが決まる。

今後、高卒者の雇用を維持する企業がなくならないかは、高卒者を、このような技能の担い手として長期的に育成することにメリットを感じる企業がどれくらい存在するかに依存しているといえる。

それゆえ、これまで新規高卒者の採用を続けてきた企業で、今後も継続的に採用が行われるためには、ノウハウ提供など企業内の人材育成を支援するような対策が必要だと考えられる。

また、人材育成のための訓練投資に対する企業の熱意をそがないためには、高卒者の能力を維持・向上させる必要があるだろう。そのために、各高校には、卒業後に就職を希望する生徒たちに対して、在学中から十分な基礎学力を身に着けさせることを望みたい。

長期的な人材育成の対象として高卒者を採用し続ける企業は、採用される若者にとっても、技能形成の機会が多い良好な就業の場を提供していると考えられる。このような企業での高卒採用を維持・拡大するための取り組みは、高卒者の良好な就業機会を確保するためにも重要である。

(読売新聞2005年9月7日解説面「論点」に掲載)