マスコミへの掲載:就職の仕組み柔軟に

労働政策研究・研修機構
副統括研究員 小杉礼子

新卒採用に明るさが見えたとはいえ、学歴が低く、年齢が若い者ほど就職が厳しく、フリーターなどに陥りやすい状態は改善していない。ニート状態のまま年齢を重ねる団塊ジュニア世代の自立促進策や、早期化・インターネット化した大卒採用の仕組みの柔軟化も必要である。

新卒採用増でも3つの問題残る

フリーターに続いてニートという新たな言葉も生まれ若年雇用問題は注目を集めている。一方、来春の新卒採用には若干の明るさが見えてきたというが、では、問題は解消に向かっているのだろうか。確かに採用数が増えれば未内定のまま卒業する学生は減るだろう。しかし少なくとも次の3つの問題は残ると思われる。

第一に、高卒・中卒者や高校中退者の就業機会は大きく拡大しているわけではなく、不利な条件の者がフリーターやニートになりやすい状態は改善していない。第二に、20歳代後半から30歳代前半のフリーター・ニートが増加しており、世代問題化している。フリーター・ニート状態の長期化・高年齢化が引き起こす問題は重みを増している。第三に、早期化すると同時にインターネット化した現在の大卒採用の仕組みの問題である。大卒者のフリーター・ニート化はこの影響が大きい。

フリーターの大半はアルバイトやパートで働いている若者であり、一方、ニートはアルバイトもせず、求職活動もしていない状態をさす。どちらも年齢は15~34歳の範囲で学生は除く。さらに、フリーターでは既婚の女性を、ニートでは既婚の男女を除いて考えるのが一般的だ。現在、フリーターは200万人を大きく超え、ニートは定義によるが52万~85万人という数字が示されている。どちらも、学校卒業と同時に正社員として就職して職業能力をつけ(女性はその後結婚して主婦になることを含めて)、一人前になるという「一般モデル」からの逸脱であり、そのことが問題の基本にある。

フリーターやニートに誰がなりやすいのか。図はフリーターについての年齢や学歴、性別の状況だが、年齢が若いほど、学歴が低いほどなりやすいことが分かる。ニート状態の者では、中学卒業学歴(高校中退を含む)がおよそ3割を占めているし、また年齢の若い者で人口比が大きいなど、やはりフリーターと同様の傾向があった。

低学歴や低年齢 就業機会厳しく

この傾向は失業にも当てはまる。学歴が低く、年齢が若いものほど、正社員になかなかなれず、仕事を探し続けて失業者にとどまっている。つまり、正社員になりやすいのは高等教育卒業者であり、また20歳代後半以降の男性であって、その対極の者が失業しやすく、また、フリーターにもニートにもなりやすいということである。

産業界の人材需要が高等教育卒業者に向かう傾向は多くの先進諸国でみられる。この背景には産業構造の高付加価値型への転換があると思われるが、多くの国では若者の雇用への影響はすでに1970年代後半から80年代にかけて表れている。これに対して日本では90年代初めまで、中等教育レベルでも新規学卒採用を活発に行なってきた。まず正社員として採用し、その後長期的な雇用を前提に企業内で育成するという慣行が広く採られてきた。こうした採用・育成の慣行の下で、若者たちの多くが学校から職業生活へと非常にスムーズに移行してきた。

それが90年に入って、一転して新卒採用を厳選化した。高校生への求人はピークには167万人あったが、今春卒業者への求人は24万人(1月時点)と激減している。学校から企業内へと直結する育成システムに乗れない若者が急増した。これが若年失業者であり、フリーターでありニートである。産業構造と雇用慣行の変化の結果、多くの先進諸国で起こっている職業生活にうまく移行できない若者の問題が、日本でも起こっている。

とすると、職業生活への移行でトラブルを抱えやすいのは誰か。専門教育を受けていない若者たちであり、就業への移行を支える仕組みそのものがもともと不十分な学校中退者である。そこに焦点を当てた対策が今後さらに重要になろう。

フリーターやニートの年齢別構成を追っていくと、明らかに高年齢化が進んでいる。内閣府の「青少年の就労に関する研究会」による推計では、2002年のニート数を85万人としているが、うち25−34歳が49万人と6割を占める。さかのぼって97年には20−29歳層がニートの6割を占め、92年には15−24歳層が6割を占めていた。すなわち、人口の多い団塊ジュニア世代の年齢上昇とともにニートの核になる年齢が上昇してきたのである。同様の傾向はフリーターでも確認される。

この世代が学校を卒業して就業へと移行する時期に新卒就職が狭き門に変わり、人口が多いことも一つの要因となってフリーター・ニートの増加につながったのだろう。その核の世代がフリーターやニートのまま年齢を重ねている。ここから第一に、いったんフリーターやニートになると、なかなか離脱して正社員になることができず、そのまま年を重ねているのではないかという推測ができる。 

最近は、アルバイトやパートからの正社員登用や契約社員等への転換の道も広がっているという指摘もあるが、就業経験がないまま20歳代後半から30歳代にかかるとそれも難しいところがある。20歳代前半までの比較的若い層では、正社員への移行支援政策が有効に働く可能性は高いが、高年齢化し、長期化した場合はどうだろうか。さらに、ニート状態が長くなれば、就業への移行にはかなり困難が伴うことが予想される。その世代がいまやフリーター・ニートの核となっているのである。

ニート状態の人 親の年金頼みに

第二に、このフリーターやニート状態の人の多くが親元で同居している。問題はニート状態の人の場合である。フリーターと違って収入がないので親掛かりで食べている状態だろう。親世代はまもなく引退期を迎える団塊世代だとすると、親の年金でニート状態の子も食べていくような事態が目前に迫っている。社会を支えるべき世代が自立しないとすると問題は非常に大きい。この世代の自立・就業促進策を待ったなしに進めなければならない。

これらの問題に比べれば、これから大学を卒業する若者たちの問題は小さい。しかし、大学3年の後半で突然就職と向き合い、キャリアの方向付けもできないまま、インターネット経由の、公平だが基準を持たないものには大量すぎる求人情報に流され、結局、途中で就職活動をやめてしまう学生が少なからず出る状況は問題である。

自分のキャリアを取り仕切る力を身につけていない学生には、キャリア教育による支援も必要だし、実際に多くの企業に足を運び、多くの企業人に会う就職活動も必要だ。就業体験の効果も大きい。また、過年度卒業生になれば応募の機会も狭まるというプレッシャーは学生たちに考える余裕を与えない。選択の先延ばしを図って、他の学校に進学したり、留学したりという「長学歴化」も進んでいる。

これほど早い時期の採用活動が必要なのか、卒業見込み者のみを対象にする採用では優秀な人材を取りこぼしていないか、大卒ニートやフリーター問題は、就職の仕組みを柔軟にするだけで解決できる部分が大きいのではないか。

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(日本経済新聞2005年4月14日「経済教室」に掲載)